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いより通信 vol.136 (2016年06月号)

どこまで対応すべき?「同一労働同一賃金」

みなさん、こんにちは。
あっという間にゴールデンウィークも終わり
我々社労士にとっての「繁忙期」がやってきました。

6月は労働保険料の年度更新書類
社会保険算定基礎届の作成があります。
今年は大学院もあり、さらに7月発売予定の単行本の
原稿の最終確認もあるので、時間が足りるのか心配ですが
やるしかないので栄養ドリンクを飲みつつ
体調を崩さないように取り組みたいと考えています。


さて平成28年5月13日に、我々労働法を扱う業界、学会を
揺るがす判決が出ました。
長澤運輸事件です。(平成28年5月13日 東京地裁民事第11部判決)
事件番号:平成26年(ワ)第27214号、平成26年(ワ)第31727号(地位確認等請求事件)

事件の概要は、次のとおりです。
定年退職後、嘱託社員(雇用期間に定めのある社員)として
勤務をしている従業員3名が、期間の定めのない社員(いわゆる正社員)との間に
賃金等の労働条件の差があることは労働契約法20条に定める
「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」に抵触するとし、
期間の定めのない社員(正社員)に適用される就業規則に基づき
賃金の差額を支払えという訴えを起こしたものです。

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参考)労働契約法20条
(期間の定めのあることによる不合理な労働契約の禁止)

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、
期間の定めのあることにより同一の使用者と期間の定めのない
労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である
労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、
労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
(以下この条において「職務の内容」という。)、
当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、
不合理とと認められるものであってはならない。

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裁判所は、労働者の訴えを全面的に認め、彼らが嘱託社員に転換した
平成26年4月1日(1名)同年10月1日(2名)以降に支払われた賃金と、
正社員であれば支払われていたはずの賃金の差額等
合計約420万円を支払うよう会社に命じました。

会社は嘱託社員としての労働契約は定年退職後に
新たに締結したものであり定年後再雇用であることを理由として
正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって
労働契約法20条にいう、「期間の定めがあること理由として」
正社員との間に労働条件の相違を設けている訳ではない、と主張しました。

それに対し、裁判所は、定年後の嘱託社員であろうとなかろうと、
「期間に定めのある雇用契約」に相違ないのであるから
労働契約法20条の適用があり、労働条件の相違が
不合理であるかどうかの考慮を行うべきであるとしました。

裁判所は、考慮すべき要素として
労働契約法20条に定められている
(1)職務の内容
(2)当該職務の内容及び配置の変更の範囲
(3)その他の事情

に当てはめ

本件の労働者ら(運転手)は正社員との間に
(1)業務の内容及び当該業務に伴う責任の範囲に差異がなく
(2)業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点についても
差異がなく
(3)定年前後で職務遂行能力についての有意な差が生じているとは考えにくいため

特段の事情がない限り不合理なものとしての評価をせざるを得ないとしました。

さらに、裁判所は「特段の事情の有無」の判断として
(1)わが国の企業一般において定年後再雇用制度を設けている会社で
職務の内容等変更をしないまま賃金だけ引き下げることが
広く行われているとは認められない。

(2)会社の賃金体系、財務状況等を鑑みると、
嘱託社員に正社員と同じ業務をさせておきながら
賃金水準だけを引き下げることに合理性は認められない。

(3)労働組合の協議も実質的具体的なものではない。


などとし、本件労働条件の差異は労働契約法20条に違反すると判断しました。


地裁判決ですので、今後高裁、最高裁での裁判所の判断が注目されます。



【裁判所の判断に対する私見】
企業が正社員(期間の定めのない労働契約)と契約社員(期間の定めのある労働契約)に
ついて、経営上の理由があって、雇用管理区分に差異を設けていると考えられます。
本件のように、「運転手」という業務であれば、職務内容、職務の範囲、
配置変更の有無など、正社員との際を設けにくいケースもあるかもしれませんが
今後は、賃金の違いと、職務・職責の違いがリンクするような賃金体系としていく方が
ベターだと考えます。
(つまり正社員はなぜこの給料で契約社員はなぜこの給料なのか、
きちんと説明ができるように職務・職責の違いをつくる)

期間の定めのない社員は解雇規制の厳しさにより、雇用の調整弁となりにくく
経済が右肩上がりの時代に設計された退職金制度の重さに皆が苦しめられ
それらから逃れるために、契約社員や派遣社員などの非正規雇用が増えました。

低賃金の非正規雇用者が増えることは、政府としては税収が減る上に
社会保険料が減り、年金制度の維持が難しくなります。
非正規雇用者の生活水準を上げると少子化にも歯止めがかかり・・という
理屈はわかるのですが、それらの負担をすべて企業が背負うべきなのでしょうか。

平成10年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、
60歳未満の定年を定めることができなくなりました。
しかし、それまでは55歳定年としている企業も多くありました。

その後さらなる法改正で、現在60歳定年は認められるものの、
企業は65歳までの雇用確保措置をとることが義務付けられています。

正社員としてのコスト負担をそのままに雇用継続も・・となると
より一層正社員の雇用を控える企業が増える、
もしくは正社員として雇用をしても、あまり賃金を引き上げられない、と
なるのでは・・と懸念する次第です。
 

参考)
厚生労働省 「同一賃金同一労働の実現に向けた検討会資料~同一労働同一賃金の推進について」
厚生労働省 「同上 Q&A]

 

6月給与の注意事項

?年度更新および算定基礎届の準備をしましょう。
いずれも提出期限(および保険料の納付期限)は平成28年7月11日(月)です。

労働保険 年度更新に係るお知らせ(厚生労働省)

今月の気づき

いつもになく、メインの記事をしっかり書いたので放心状態です(笑)

しかし4月から大阪大学大学院に行くようになり、日々上記のような文章を書いております。
毎週、さまざまな裁判例を読み、分析し、討論をする、の繰り返しです。
講義のほかにも教授が主催されている研究会にも参加をさせていただいたり
研究できる環境が整っているので、やろうと思えばいくらでもできる感じです。

自分が社会人でもなく、家庭を持っていなければ、
もっと研究できるのに・・と思うこともありますが
社会人だからこそ、現実社会での問題点が見えるのであり
家庭があるからこそ、自分の子どもの未来のために今、何をすべきか
何を提言すべきかがわかるのだと考えています。

勉強であれ,仕事であれ
自分の置かれた環境を「できない理由」にするのではなく
今の環境を受け入れた上で、どうしていくのか、だと思います。

残念ながら加齢により日々体力が落ちているのを感じます。
「今後の人生の中で今が一番若い」をいつも念頭におき
後回しにしても、後で楽になることはないので
今、できることは今、どんどんやっていくことを心掛けたいと思います。

 

(2016年06月発行)

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