経営者が知っておきたい労務管理のポイント

従業員が増えてきました。社内のルールを整備したいのですが

従業員が増えてくると、共通のルールというものが必要になります。例えば結婚休暇ひとつにしても、ある従業員は海外に新婚旅行に出かけるからということで2週間の休暇を与え、一方結婚式だけを行った従業員は3日だけの休暇だった。この従業員が結婚後1年経ってから新婚旅行に行くので10日休ませてほしいと、申出があったときにどう対応するのかなど、きちんとルールを整備していないと、全て個別の判断になり、従業員間に不公平感が発生します。本来業務以外が原因でこのような職場に不協和音を発生させることは望ましくありません。

誰にでも公平に適用されるルール作りが必要です。

労働基準法は労働者を守る法律なので、そんな法律に沿った就業規則を作成するなんて、経営者の首を絞めるようなものだ、とおっしゃる経営者も中にはおられますが、現在コンプライアンスというのは企業にとって必須の資質となっています。就業規則作成を通して、法令を再確認し、余計なトラブルで本来業務を妨げられることのないようにしたいものです。
以下就業規則を定める際に知っておきたい労働基準法のポイントについて列記しますので御確認下さい。

労働時間

「1日8時間以内、1週間40時間以内」の労働時間というのが労働基準法の定めです。 (労働基準法第32条)(一部週44時間以内の特例対象事業あり)

9時始業18時終業(途中休憩1時間)完全週2日制の会社であればクリアですね。
そうでない場合は例えば1ヶ月を平均すれば法定労働時間内になるという取り決め(1ヶ月単位の変形労働時間制)や会社の稼働日カレンダーを作成し1年を平均すれば法定労働時間内になるという取り決め(1年単位の変形労働時間制)を導入することによって法定労働時間をクリアすることができる場合もあります。

原則の「1日8時間以内、1週間40時間以内」を押さえた上で、それにあてはまらなければどうするか、というところですね。
変形労働時間制や、あとは裁量労働制というものもありますが、要件が個別に異なりますので労働基準監督署もしくは社会保険労務士にお問い合わせください。

労働契約は法定労働時間での契約しかできません。法定労働時間を超えて仕事をしてもらう場合は従業員代表と時間外協定を結んで所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

休日

法定休日は1週間に1回、もしくは4週間に4回です。
休日は必ずしも日曜日にする必要はありません。会社で就業規則を定める際に決めることができます。年中無休の会社でシフト制にしている会社は、週1日以上という約束を守り、できるだけ事前に休日の特定をするようにしましょう。
尚、週1日の休日では前項の法定労働時間をクリアできない場合が大多数になるかと思います。
普段の日に時間外労働が多い会社は特に、過重労働に対するリスクを回避するためにも 休日を増やして年間労働時間の削減をめざしましょう。

有給休暇

法定の付与日数は入社して6ヵ月経過後に10日以上の有給休暇を与えることとなっています。
その後勤務年数に応じて1年ごとに勤務年数に応じた有給休暇が付与されます。
有給休暇取得は従業員の権利なので、経営者は取得の申出を基本的には断ることはできません。
但し、組織で動いている限りは「段取り」というものがありますので、いつまでに誰に対してどういった書式で有給の取得を申し出るかということを決めておくことが必要です。

経営者には「時季変更権」というものがあります。業務の繁忙期等に同じ部署の人間がまとめて有給休暇の申請をしてきたときに、取得時季の変更を申し出る権利です。しかし時季変更権の濫用は認められていません。この時季変更権を行使するためには、やはりある程度事前に有給の取得申請はしてもらうようにしましょう。少なくとも1週間前には申請をしてもらいたいですね。

休職

現在うつ病などの精神疾患で長期休職をする従業員が増えています。
就業規則に休職規定がない会社の場合、いつまで従業員の復職を待てばいいのか判断に困るといったご相談も多く受けます。休職については労働基準法には規定はありません。
会社で独自に期間を定めることができます。

休職期間満了後は自然退職という規定を設けることが多いことから、解雇までの猶予期間と考えた場合、30日前の解職の予告と考えると、少なくとも1ヶ月間は必要でしょうし、まず休職を決定するまでに、何日の欠勤があれば、休職扱いにするのかなども十分検討の余地があります。

あとは復職の判断や、復職後、再度同じ疾患が原因で休み始めたときの取扱いなど、規定できちんと定めておくことが必要です。
また人によって取扱いを変えると規定の意味がなくなりますので、一旦規定を決めたら規定に沿って取り扱うことが必要です。
勤続年数に応じて休職期間を変えている会社もあります。

出向・転籍

出向や転籍について人事権は会社にありますが、出向や転籍があることを就業規則に定めておかなければなりません。転籍については就業規則の定め+個別の同意が必要になります。
労働基準法に定めはありませんが、出向、転籍についてもトラブルの多い事項ですので就業規則に取扱いについて記載する必要があります。

懲戒規定

従業員に対する懲戒については懲戒規定がなければ、「懲戒処分」を行うことはできません。
懲戒規定があって初めて「懲戒処分」が可能になります。懲戒規定を作成する際には何をしたときにどういった懲戒になるのかを明確にする必要があります。(罪刑法定主義)

通常、訓戒、出勤停止、減給、諭旨免職、懲戒解雇といったランクがあることが多いのですがよほどのことがない限りはいきなり「懲戒解雇」をすると解雇権の濫用で解雇は、無効と判断される場合もあります。

無断欠勤の多い従業員等についてもまずは注意、教育をして始末書を取り、訓戒→出勤停止→減給を経てから懲戒解雇というステップを踏むことになります。

懲戒解雇をするために労働基準監督署の認定は必要ありません。あくまでも会社の定めた規定に沿って処分を行うということになります。

但し、即時解雇に対する解雇予告手当の支払いを逃れたい場合には、所轄の労働基準監督署に対して、解雇予告の除外認定を申請しなければなりません。この申請については解雇を申し渡してからでは遅いので、通常は自宅待機をさせておいて、懲罰委員会で懲戒解雇を決定し、従業員に言い渡す前に除外認定の申請をすることになります。除外認定の申請を受けた労働基準監督署は従業員からも事情聴取をした上で、認定を出すことになりますので、通常は認定まで2〜3週間かかります。

賃金規定

お給料の締め日、支払日、割増賃金の計算方法、各種手当の支給要件、昇給の要件などを定めたものです。
人事評価制度を導入した場合は、どういう場合に昇給、降給の要件を必ず記載する必要があります。降給については、原則としてきちんとした評価制度があり、激変緩和措置を設けた上でかつ就業規則に降給についての記載がある場合のみ可能であると認識下さい。

客観的合理的理由のない労働条件の不利益変更については判例も経営者にとって厳しいものばかりになっています。

退職金規定

退職金については必ずしも制度として設ける必要はありません。終身雇用が前提であった時代は従業員の長期雇用のモチベーション維持のためにいわば給与の後払いのような形で、勤続年数が長くなるほど退職金の支給率が上がる退職金制度を導入していた企業が多く、税制面でも適格退職年金等優遇措置が取られていましたが、適格退職年金についても今後税制面の優遇が受けられなくなること等あり、退職金制度を見直す会社が増えているのが現状です。

ここ何年かで設立された会社については、ほとんど退職金制度は設けず、その原資を今、成果を出している従業員に配分しようという気運が高まっています。
退職金規定については、退職金制度がない会社については、作る必要はありません。

セクハラに関する規定

平成19年4月に男女雇用機会均等法が改正になり、セクハラに対する企業の取るべき措置が指針として示されました。

  1. どういう事例がセクハラになるのか企業内に周知させること
  2. セクハラが発生した場合の処分について、就業規則等に規定を定めること
  3. 相談窓口をあらかじめ定め、セクハラが発生した場合には適切な対応を行うこと
  4. 事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正な措置を行うこと
  5. 再発防止のための措置を講ずること
  6. プライバシー保護に対する必要な措置を講ずること
  7. 相談したことに対して不利益な取扱いをしないこと

会社としては、相談体制をきちんと取り、万が一セクハラが発生した場合の対応方法について就業規則に明記するのはもちろん、社内アンケートを取ったり、勉強会を開くなどの社員の意識調査及び意識改革が必要になります。
万が一セクハラが発生して裁判になった場合は、会社は従業員に対して仕事に専念できる職場環境の整備を行わなかったということでの損害賠償責任を問われることになります。そのようなトラブルに巻き込まれると他の従業員の士気にも影響し、無用な時間と労力、金銭が必要になります。
うちの会社は大丈夫、ではなく、現状把握をきちんと行い、職場環境の整備を行いましょう。

育児や介護に関する規定

平成17年4月に育児介護休業法が改正になり、雇用期間の定めのある契約社員についても要件を満たす場合は取得ができるようになり、また育児休業の期間についても、一定の要件を満たす場合は最長1年6ヵ月まで取得可能になりました。

育児休業、介護休業、については、就業規則に定めるべき「休日、休暇に関する事項」になりますので、対象者がいようといまいと明記する必要があります。

原則として、これらの規定は全従業員(パートを含む)に適用になりますが、従業員代表と労使協定を結んだ場合は専業で子育てができる配偶者がいる場合や週所定労働日数が2日以下の場合等は取得の対象者から除外することができます。

育児休業者が発生した場合はその後社会保険や雇用保険の手続きもありますので、取得時期等については申請書フォームを整備し、書類で管理するようにしましょう。